ゴーストとしての個人情報

ネットワークやユビキタスに関する打ち合わせ。
さまざまな喩え話が飛び交う。
巧妙な喩えを構築できた者ほど成功を掴むような気になってくる。稀代の喩え屋にでもなろうか。



個人情報について考えてみる。
Yahoo!BBの事件が明らかにするように個人情報には価値がある。個人そのものより個人に付随している情報のほうが価値があるみたいにもみえる。
個人情報はその個人の分身、ゴースト、影。しかし今や分身のほうが高く売れそうだ。
中国の昔話だったかに影に自分という母屋を乗っ取られるという話があったが、なんだかそれが現実に思えてきた。
昔、悠木千帆という女優が自分の名前を売って樹木希林になったが、あれは個人情報を売った先駆けだと思うと感慨深い。



多和田葉子の「旅をする裸の眼」を読む。
これもまた個人が情報によって造られているということの証明のような物語だ。特に旅行者は自分を証明する情報がないと命取りだ。
パスポート、ビザ、国籍、職業、年齢。
自分の情報をすべて剥ぎ取られた少女が向かうところは映画館。映画の中の女優たちは、作品ごとに全く違う人物を演じることができる。作品の中では違う個人情報を持った他者になれるのだ。
やがて少女も現実での自分を失い、スクリーンの中に同化していく。誰でもなく誰にでもなれる自分になるために。


沖縄の麩
島らっきょう
久保田 碧寿