我が愛しのバンパイヤ

「バンパイヤ」手塚治虫のTVドラマDVD、見る。
 生まれつきオオカミに変身する能力を持つバンパイヤ一族の血を引いた兄弟をめぐるアクション&サスペンスもので、水谷豊のデビュー作としても知られている。
 それにしても、いやー懐かしい。「月の光、夜の風・・」という不気味だが勇壮なテーマソングを聴いた途端、当時の記憶が蘇る。
 この曲のドーナツ盤を当時持っていて繰り返し聴いていた。
 たいていのことは忘れるくせに、こういう曲の歌詞は今でも丸々暗記しているというのは、どういうことか。人間の記憶という奴はつくづく不可解だ。


 「バンパイヤ」は1968年に放映されたものであるが、或る意味、記念碑的番組である。
 実はこの作品、実写にアニメを合成させた初のTV番組なのだ。当時はなにげなく見ていたが、改めて見るにつけ、その冒険心というか志の高さに驚く。
 今でこそ実写にCGなどを合成することは常識になっているが、68年当時はたいへん難しい技術のいることであった。
 いわゆる映画などで用いられてきた「エリアル合成」のテクニックを採用しているわけだが、実写同士の合成と違って、この場合、アニメセルをコマ撮りしていかねばならないので、膨大な手間と時間がかかった。(撮影は機材を持っている江古田の日大芸術学部でやっていたらしい)


 あげくの果て、どういう事情かわからないが、肝心の放映スポンサーが付かず、放送が開始されたのは全編完成した半年後。番組自体もあまり人気が無く、低視聴率のため途中で、放送曜日を移動させられる有様だった。
 これが直接の原因ではないが、この後、虫プロは倒産の道へと進んでいく。


 私自身は当時かなり熱中して見ていたので、不人気作ということが信じられないが、「怪奇大作戦」のようなテイストに、いきなり手塚キャラのアニメが乗っているということに、違和感を感じた人が多かったのかもしれない。
 後年に、ディズニーから「ロジャー・ラビット」という作品が出現しCGキャラと生身の俳優の競演と話題になったが、「バンパイヤ」はそれをずっと以前に実現していたのだ。


 というか、改めて見るにつけ、これはまさに「ロジャー・ラビット」なのだ。証拠はないが、ディズニーはこの「バンパイヤ」をなんらかの形で参考にしたように思えてならない。
 合成手法などは当然として、なにより興味深いのは、バンパイヤの後見人ともいえる森村記者役の渡辺文雄とロジャーの相手役の探偵ボブ・ホスキンスの顔の似ていること。外見だけでなくキャラ的にもそっくりである。
 ボブ・ホスキンスは単に渡辺文雄に似ているから起用されたのではないかと勘ぐりたくなるくらいだ。


 バンパイヤのもうひとつの魅力は、様々な部分に滲み出る倒錯的表現である。
 悪役ロックこと間久部緑郎は、しばしば女装をして人を攪乱するし、ロックとバンパイヤ・トッペイはマゾ的な服従関係で結ばれているのだ。ロックにかかわれば酷い目に遭わされるのを承知で近づいていくトッペイの行動は、深層心理的に考えて複雑なものを秘めている。
 手塚はこの作品で無意識に、悪の抗しがたい魅力を描いていたのかもしれない。


「バンパイヤ」
http://ja.tezuka.co.jp/anime/sakuhin/ts/ts011.html



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