「新潮」3月号に村上春樹の短編が掲載されていた。

東京奇譚集」と銘打った連作である。第1回は偶然という現象をめぐる話「偶然の旅人」。


 変わっているのは、まず冒頭で村上春樹自身が語り部として顔を出すというところ。曰く、芝居の前口上で作者が出てきて挨拶するという感じらしい。そんなことをしたのもどうやらこの連作をフィクションではなく実話として捉えてほしいためなのだ。読むと実話にしては不思議すぎるエピソードが紹介されている。でもやはりこれは実話なのだろう。そうは言っても、やっぱりフィクションなのでは、とも思うが、ここは一応作者の意図に乗っかって楽しんだほうがおもしろそうなので、鵜呑みにすることにしたい。
 でもどうしてわざわざ実話と強調したいのだろうか。フィクションと思って読まれるとなぜ嫌なのか。フィクションにしたって十分いける話なのに。相変わらず謎が多くておもしろい。


 醸し人九平次 いか刺し