「おたく:人格=空間=都市」フォーラム 東京都写真美術館。

marudonguri2005-03-13

 おたく展もついに本日を残すのみとなった。予想を遥かに上回る来場者数にただただ驚くばかり。
 11日(金)は森川嘉一郎さんをモデレーターにこの建築展の仕掛人でもある磯崎新さん、そして今回の出品作家(「おたくの部屋」)でもある精神科医斎藤環さんをゲストにフォーラムを行った。
 用意した整理券190枚は瞬く間になくなり、結局立ち見が出るほどの盛況。ありがたや。
 話の中身のほうも、ここだけでしか聞けないような圧倒的な濃さ。展示だけでは満足できない何か渇望感のようなものを抱えた人々に期待通り応える内容だったと思う。
 いくつか取り上げられた論点の中で印象的なものを列記する。



 ・アキバのものをヴェネチアに展示する意味とそれを再び恵比寿の地に展示することの意味の違い
  これは多くの人に聞かれたことすなわち、「アキバに行けば普通に見られるものをなぜわざわざ恵比寿で展示するのか」に応えたものだ。要するにおしゃれな恵比寿に異文化圏のアキバを持ってくることでその差異を意識させるというものだ。ただこの恵比寿・渋谷対アキバの解釈については斎藤氏から対立だけがあるとは思えず、渋谷などの猥雑な文化状況を見れば、「下世話」という部分ではアキバも渋谷も同じではないかという疑問も呈示された。


 ・実はおたく展の前兆ともいえる展示があった。
  91年ロンドンで行われた「Visions of Japan」において、石山修武氏らのおこなった展示は、工事現場でよく見かける旗振り誘導人形や漁船の派手派手しい大漁旗キングギドラによって破壊された街のミニチュアなど、日本文化を今までには無い斬新な視点から扱ったものであった。
http://ishiyama.arch.waseda.ac.jp/www/worksfile/chaos.html
 森川氏は実はこの石山研究室出身で、今回のおたく展を見て磯崎氏は「石山一派はいつも何か刺激的なコトを起こす」。そして磯崎氏は展示というものは賛否両論渦巻くことが大事で、肯定だけの展示や何もコメントもされないものなどは失敗であると。そういう意味で今回のおたく展は、内外多方面から賛否の渦を巻き起こしているので大成功であるとした。


 ・フィギュア付きカタログにある暗示的な誤植について
 今回の展覧会では幻冬舎から新横浜ありな付きのカタログが発売されたが、そのカタログの英文中、一ヶ所誤植があったと森川氏。
 「public space」とされるところを「pubic space」とあり、実は「pubic」を辞書で引くと「陰部の〜」という意味になる。すなわちこれは偶然にも、アキバ=陰部、恥ということを暗示的に示している大変貴重な誤植であると。
 さらに森川氏はそれを糸口に、アキバ=恥文化という視点から近代日本から現代までの上品文化と恥文化の対立の歴史を語った。
 また、恥文化の中から沸き起こった「萌え」や幼女フィギュアを「上品な」美術番組である「新日曜美術館」が放送した面白さ、さらにはキャスターであるこれまた上品の権化のような山根基世アナが「萌え」と発話するおかしさについても言及。


・なぜおたくは太っているのか?
 磯崎氏より最後に「なぜおたくの人たちはお腹が出ている人が多いのか?」という実に素朴であるが根源的なことを含んだ疑問が森川氏に浴びせられる。
 森川氏曰く「おたくが皆、太っているわけではない。しかし確かに太っている人も多い。おたくだから太るのではない。敢えて言うなら。太っているとおたくになっていく率が高いのではないか」。



 この他にも会場の爆笑を誘う様々な議論が飛び出し、近年稀に見る収穫多いフォーラムであった。
 登壇した三人それぞれが強い個性で、エンタテナー的才能に溢れたプレゼン力を有していたことがこうした素晴らしい結果に繋がったのだと思う。
 やっぱり放送提案すべきだったか。しかし既に展示自体を日曜美術館でやっていたし、提案しても持って行き方が難しかっただろう。しかし今後このへんの話は何かに繋ぎたいところだ。


 フォーラム終了後、ガーデンプレイスの「音音」に移動して、懇親会。
 斎藤環氏に現在構想している或る展示プランをお話しする。まだ具体性には乏しいのだが、コンセプト自体は気に入ってくれた様子。おたくに続くNEXTになるものと自分としては確信しているので、今後、さらに詰めていくことを決意。とはいえ時間もあまりないので一気に固める必要がある。


 高揚した気分のまま、学芸員さんらと別の店へ。斎藤氏にも話したプランについて、あれこれ話す。やはり何にしても時代のムーブメントになるような企画というのは苦労も多いけど、やりがいがありますねという感想で一致。
 しかしその反面、おたくというものをこうして公式にオーソライズしたことで、おたくが今後、悪い方向で消費されてしまうのではないか、その片棒を結果的に担ぐことになっているのではないかという個人的な危惧もないではない。
 最近の風潮として「かっこいいもの」=善みたいなものがあって、「かっこ悪い」はずのおたくまでも徐々にその「かっこいい」ものに取り込まれていくような気がする。世の中すべてかっこいいものばかりになっていくのもなんだか変な感じだ。おたくには更にかっこ悪い方向へ逃げてもらいたいものだ。
 しかしどんな状況になっても、その「かっこ悪さ」の輝きを失わないものとはなんだろうか。エバーグリーンなダサさ。なんだかとても大事なもののように思える。


 おたく展も本日日曜まで。現在までで来場者は2万人を超えている。
 巡回展も特におこなわれないので、これでこの展示は見納めである。