笑福亭鶴瓶落語会。

スジナシ 笑福亭鶴瓶×妻夫木聡×宮藤官九郎
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笑福亭鶴瓶 妻夫木聡 宮藤官九郎


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 最近、私落語というジャンルを開拓しつつある鶴瓶師匠。
 私落語すなわち自分史を語る落語である。まさに私小説の落語である。
 最近の小説で密かにおもしろいと思うものも実は私小説である。昨年、同人誌から突然現れた西村賢太などはその代表格で、女絡みの壮絶なダメぶりはもはや車谷長吉を超えている。
 赤裸々に自分をさらけ出して書くという行為はなかなか普通の者にはできない芸当で、それができるだけで、もう神から選ばれた人間なのである。


 その選ばれた人間、鶴瓶師匠の行くところ、必ず何かが起こる。まさに犬も歩けば棒にあたる状態である。こうした日常が山となって人生を作っているのだから、その中のえりすぐりのエピソードを噺にしたものがおもしろくないわけがない。
 この私落語、まだ数は多くないが、既に「青木先生」というホームラン級の作品が出来上がっている。これは浪花高校時代の恩師にまつわる噺であるが、やはり実話に基づいているだけあって、先生の描写などディテールに力がある。
 怒ると歯の隙間からピーという音が出る先生で、その音が聞きたいばっかりに、わざと授業中に怒らせるというたわいもない話なのだが、これが死ぬほどおもしろいのだ。
 鶴瓶の落語と言ってもまだ世間的には認知されていないので、この「青木先生」は早くCDなどにして多くの人に聞いてもらいたいものだ。


 というわけで今回、青山円形劇場で行われた落語会でも、その私落語がまた新しく披露された。
 その名も「お母ちゃんのクリスマスツリー」。
 ついに鶴瓶師匠の実母の登場である。神の子鶴瓶を産んだだけあって、母は相当な変わり者であったらしい。もう鬼籍に入られたそうだが、死ぬ間際まで、子の鶴瓶にツッコミを入れたりして、張り合っていたらしい。
 話自体を聞くと、母の変人ぶりというよりは、やはり鶴瓶師匠の奇行が際立っていて、改めて神の子であることが窺い知れる。まだネタおろしということで話が整理されていない部分もあったが、この作品も今後、師匠を語る上で重要なものとなっていくことだろう。


 ほかに、桂三枝師匠から薦めてもらった「悲しみよありがとう」、大師匠であるところの松鶴スタイルの「愛宕山」も披露。いずれもコテコテ感たっぷりの熱演であった。