ニューヨークでバルテュス。

 
 久しぶりにニューヨークに行ってきました。
 相変わらず刺激的な街で、古くて新しい発見にいくつもぶつかり、一週間もいるとへとへとになります。
 あらゆる著名な美術館には私に対して容赦ない力を持った畏るべき部屋が存在しますが、ここニューヨークではメトロポリタン美術館バルテュスの部屋です。
 「夢見るテレーズ」「山」そして「夏の日」。
 これらの作品を見るたびに、私はざわざわとした不安にかられ、いま、ここ、自分の一切が消えていくような気分になります。
 でもしばらくすると、なんだかすっと肩の力が抜け、奇妙な軽やかさが身体の隅に宿ってくるのです。
 これはどういう作用なのか自分でもよくわかりません。あえて理屈は考えないようにしています。理屈を思いついた瞬間、この絵がもたらす私への作用が消滅してしまうような気がするからです。
 誰にもこうした「必要な」絵があるのだと思います。


 ほかにニューヨークの発見をいくつか。


 噂には聞いていましたが、自然史博物館のハイデン・プラネタリウムは、予想を遙かに上回る迫力満載の宇宙ショーでした。
 星や惑星の誕生と運命、そして銀河の宿命というものを、半球型のスクリーンをフルに使って見せていきます。
 まさに神の視点としか言えないようなカメラアングルで、宇宙の壮大さが描かれると、なんだか宗教が必要な意味がわかってきます。
 私は星が爆発・生成を繰り返す光景を見ながら、いかにもな東洋人的諦観で諸行無常などの言葉が浮かんできましたが、そこにいた雑多な人種で構成された観客も皆、それぞれ自己が依る宗教に基づく感慨を深めたに違いありません。

 あまりガイドブックに載っていないようですが、ぜひ一度見る価値はあるすばらしい映像コンテンツです。
 ナレーションはロバート・レッドフォード。ハードはなんと日本の五藤光学でした。
 入場券はネットからも予約購入できます。
 http://www.amnh.org/rose/spaceshow/cosmic/

 展望台といえば、エンパイアステートビルが有名ですが、昨年、ロックフェラーセンターにも展望台がオープンしました。
 http://www.topoftherocknyc.com/
 長いこと閉鎖されていたらしいのですが、建設当時の面影を残したままの展望台が再開されています。
 
 この展望台の最大のメリットは、エンパイアステートビルを望めるということでしょうか。
 当たり前ですが、エンパイアステートビルに上るとエンパイアステートビルは見られませんからね。
 アメリカらしく、展望台に上がる過程も飽きさせません。

 エントランスではマルチスクリーンでセンター建設の歴史が上映され、エレベーターは天井が透明スクリーンになっていて、アメリカの成長の歴史が、上昇とともに高速で映し出されていきます。
 なぜか屋上では、全くセンターとは関係のないペットフードやリードを売っていました。謎です。


 
 グランド・ゼロはまだまだえぐり取られたままの廃墟を晒しています。
 もう既に再建工事は始まっているのですが、ぽっかりと空いた印象はそのままです。
 すぐ脇にあるディスカウントストアのセンチュリー21の猥雑な喧噪が、感傷を吹き飛ばすしたたかな強さを与えてくれます。


 食事は、日本ではあまり見かけないチベット料理を食べようとTibetan Kitchenに行きましたが、40名ものチベット人の団体でいっぱい。
 泣く泣く断念しました。
 チャイナタウンはますますその勢力を広げているようです。
 リトルイタリー寄りの潮州飯店で雲呑麺を食べていると、ニューヨークにいることを忘れます。


 ニューヨークにいることを忘れるといえば、今回もPSPロケーションフリーを使って、日本のテレビを見てしまいました。
 ホテルのネット環境が良好だったこともあって、ほとんど途切れることもなく、「トリビア」などを見ましたが、
 ニューヨークまで来てわざわざ見るものじゃないですね。
 


バルテュスの優雅な生活
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