今、蘇る円朝芝居噺。

毎年、足を運んでいる「志の輔らくご in 下北沢」。今年も行ってきました。
本多劇場という舞台を意識してか、ここでの公演は毎年趣向が凝らされています。
昨年は、文楽とのコラボ、それも落語の「猫の忠信」を元にした新作(?)文楽で、
落語ファンのみならず文楽ファンも度肝を抜かれた内容でした。


今年は普通にやるという噂があったので、あまり過度の期待をせずに行ったのですが、
これが嬉しい大誤算。
なんと、披露されたのはかの有名な「牡丹燈籠」。
牡丹燈籠といえば、落語の最高峰名人である三遊亭円朝の代表作。
ふつうにやれば、ひと月はかかってしまうという大長編です。
そこはさすが志の輔師匠、なんと巨大ボードを使った人物相関図を登場させ、
おもしろおかしくかつ丁寧に、この複雑怪奇な大河ドラマを解きほぐしていきます。


そこで判明した結論はすなわち、牡丹燈籠は怪談ではない、ということです。
例の、足がある幽霊が下駄の音をカランコロンさせながら現れる場面ばかりが口演されたために、
どうしても物語全体が怪談というイメージになってしまったのでしょう。
実体は、因果応報のめくるめく円環劇とでも言いましょうか、
いつの時代も変わらない人間の業の深さをしみじみ感じる物語です。


円朝自らが、この噺を演じるに際して、落語なのだから自然におかしく演じよと語っていたといいます。
その教えを守ってか、志の輔師匠の牡丹燈籠は、落語という本分を忘れていない、実におかしくせつない噺になっていたと思います。
それにしても、たった二日間の公演にこれだけのパワーと手間をかける姿勢にはいつもながら脱帽です。
これを機に円朝噺をさらに披露してくれることを期待します。


偶然にも、辻原登氏が先月号から群像にて、「円朝芝居噺 夫婦幽霊」の連載を始めています。
ひょんなことから円朝の速記本を手に入れ、そこに書かれた未発表と思われる円朝の作品が明らかにされていくという内容ですが、
そこは虚実の世界を往還する辻原センセイだけあって、どこまでが本当か眉唾か、全くわかりません。
これほど油断ならない作品がいまだかつてあったでしょうか。
そういえば、辻原センセイが「村の名前」で芥川賞を獲った時、
選考委員の吉行淳之介が「作中の桃花源村が実在である、ということを作者が後のインタビューで語っていて、白けた」と書いています。
私もそれは全く同感なので、今回はこのまま真実をバラさずに、そっと夢のままにしておいてほしいところです。


来月は円朝忌に先んじて「ボクらの円朝祭」と銘打った落語会も開かれます。
注目は談志家元による「黄金餅」です。
往年の「ひとり会」に残る口演では、例の下谷山崎町から麻布絶口釜無村木蓮寺に至る道中付けの部分を、
家元流に現在の街並みに置き換えて、朗々と語っています。
円熟を増した現在、どのような道中付けが語られるか、今から楽しみです。


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