志の輔、昇太、たっぷり。

 最近はどうも気分がすぐれないのですが、好きな落語を聴いていると少しは気持ちが上向きになります。
 iPodで聴くのもいいのですが、やはりライブで噺家のなりを見るのがたまりません。
 安藤鶴夫がある随筆の中で、舞台に登場する姿見たさにやってくる客が昔の寄席にはいたと書いていました。
 私もその気持ちはよくわかります。
 木賊刈りのお囃子が流れ、談志家元がやや猫背で手をすりながら現れる瞬間は至福の時です。
 大ネタをやっつけて、少し口を開け気味で袖に引っ込む志の輔師匠の姿も乙な感じです。


 今年を振り返るのはまだ早いですが、談志家元に限って言えば、例の新橋親子会での「子別れ」、「ボクらの円朝祭」で「黄金餅」、「談笑真打披露」で「二階ぞめき」、そして先日の「一期一会」で「居残り左平次」と、最も好きなネタと共にその姿を見ることができたので最高でした。あとは師走のリビングで芝浜に出会えたら言うことないですね。


 ライブで今、最強の噺家は、たぶん志の輔、昇太、鶴瓶ではないでしょうか。
 初めて落語を聴くという人には、この三人のライブを薦めるのですが、どれも大人気で簡単にチケットが取れません。
 先週の新宿での志の輔、今週の下北沢での昇太と、どちらも補助席が出るほどの満員御礼でした。
 来月、青山でやる鶴瓶の会も既に売り切れ、ヤフオクでも良い値がついています。


 彼らに共通しているのは、現代の感覚をうまく落語の世界に落とし込んだ新作を持っていることです。
 新作は簡単そうで難しいものです。今流行っているキーワードを少し挟めば、軽い笑いは充分取れますが、噺としての寿命はそれだけ短くなります。
 例えば、今更、タマちゃんとか風太くんと言っても、微妙なわけです。
 やはり噺が時間が経っても耐久性のあるものになるのは、それなりの骨が必要です。
 時間という風雪に耐える骨とは。談志家元の言葉を借りれば、それはいつの時代も変わらない人間の業というやつでしょうか。
 志の輔師匠の「みどりの窓口」、昇太師匠の「人生が二度あれば」、鶴瓶師匠の「青木先生」などにはそういう骨がしっかり存在しています。
 今は、こうした新作噺は彼らの口からしか聞けませんが、今後、これからが弟子や他の噺家によって再演された時、その隠された骨の強さが見えてくるのではと思います。


 それにしても、本多劇場という場のせいかもしれませんが、昇太師匠を見に来る客はなんでもないことにもよく受けてくれますね。
 客層が普通のホール落語にいるような層とは明らかに違い、こう言っては悪いですが、箸が転んでも可笑しいというか、まるでルミネよしもとにでもいるような気になりました。
 まあ様々な客が落語の良さを知ることは落語全体にとって良いことなわけですが、現実的には、たいていこういうお客は、地味なものには興味がないので、古典派落語家や寄席にまでは行こうとしないので、結局ピンポイント的な盛り上がりに終わってしまうことが多いのが残念です。


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