ロボッチイヌと浮世だんご。
NHK落語名人選 (5) : 三代目 三遊亭金馬 | |
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現在のマイブームは、三遊亭金馬(三代目)と獅子文六です。
どちらも存命中は大衆の圧倒的支持を得た人気者でしたが、芸術的な評価はそれほど高くないようです。
金馬の音源はそれでも最近、復刻などされて、前より多く聞くことができますが、やはり志ん生、文楽、円生などの扱いに比べると格段の差があります。
獅子文六も今では、そのほとんどの著作が絶版になっていて、多くは全集を当たらなければ読めない状況です。
一世を風靡した時代の寵児というものはやはり時代の変化とともに風化してしまう存在なのでしょうか。
しかし、改めて読んだり聞いたりして驚きました。風化するにはもったいない面白さと新鮮さを有しているのです。
それぞれの代表作には、時代を超えた強度があります。
獅子文六で言えば、株屋の破天荒な人生を描いた「大番」や企業抗争の赤裸々な実態を描く「箱根山」などは、今でも充分通用するエンタメとして読めます。
金馬はその独特の語り口と、観客の空気に合わせた臨機応変のアドリブなどが冴えていて、「藪入り」や「孝行糖」は最高の面白さです。
多作、持ちネタ多数の両者なので、探せばレアなものにも当たります。
珍しい作品をそれぞれ紹介すると、まず、金馬の名著と言われる「浮世断固」です。
これは金馬自らが筆をとったエッセイ集です。500部限定出版で、関係者しかその存在を知りませんでしたが、近年、つり人社というところから復刊されました。(復刊時の題名は「浮世だんご」)
金馬は大の釣り好きでしたから、その関係で、この出版社が出したのだと思われます。
読むと、今では貴重な落語界の符牒が書かれていたり、釣りをしにいって列車に轢かれた話など金馬自身の様々な体験が語られています。
名著と呼ばれる円生の「寄席楽屋帳」のような生々しい裏話は載っていませんが、金馬独特の落語論がわかり、彼の目指した落語のかたちがわかる気がします。
獅子文六には「ロボッチイヌ」という本があります。
これは別にイヌの話ではなく、ロボットをフランス語の女性形にした造語のようです。
女性を家庭内性奴隷という状況から解放するために、ある企業が売春ロボットをつくるというSFです。
似た話は、小松左京や手塚治虫などにありますが、獅子文六のほうが少し早いようです。
この短編集はいわゆる風刺作品集ですが、嫌みな皮肉ではなく洒落たユーモアに富んだ作品が揃っています。
「霊魂工業」「金髪日本人」と題名も秀逸ですが、作風もちょっと筒井康隆的だったりしてブラックで粋なセンスに溢れています。
ケラリーノ・サンドロビッチあたりに脚色してもらうと面白いものになるような気がします。(雲の上団五郎一座のようなノリで)
大衆的というだけで忘れてしまうには、なんとももったいないお二人です。
これからも、金馬師匠と文六先生を追いかけたいと思います。
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