愛羅武、夜露死苦。

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「新潮」12月号に掲載されている谷川俊太郎都築響一の対談が面白いです。
この対談は都築さんの『夜露死苦現代詩』が発刊されたことにちなんで行われたものです。
夜露死苦現代詩』も新潮に連載されていました。
この本は、ヤンキーの特攻服に刻まれたコトバ、知的障害者が放つ意味不明な詩、そして相田みつをまで、今まで誰も真面目に取り上げなかった「現代詩」にスポットを当てた労作です。
一見すると、ゲテモノ趣味なVOW的笑いを狙ったように思われるかもしれませんが、そんなことは全く無く、むしろ、「ホンモノの現代詩」が置かれている状況や、人々がどんな詩を必要としているのかがはっきりと見えてくるのです。それはやはりアウトサイダーに対して常に愛情と畏敬を持って接してきた都築さんだからこそできた結果だと思います。


ヤンキーの特攻服の「詩」
「人生夢見て歩むべし それが選んだ道ならば 俺がつらぬき通すだけ 世間は馬鹿と言うけれど なってみやがれ この馬鹿に」


ヤンキー達は中学や高校の卒業の際に、記念の特攻服をつくるといいます。その製作を専門に行っている縫製所もあるようです。
詩の文句はド演歌丸出しですが、彼らの日常に最も近く、誇りを持って背中に刻めるのがこの言葉なのです。


ある知的障害者の「詩」
「私が高校野球第1回夏の選手権大会の始球式を、推薦した人は誰でしょう? 1夏目漱石 2石川啄木 3福沢諭吉 4正岡子規   答え4」


これは全く意味不明ですが、どうやら「クイズ形式の自分史」らしいです。他人に解答を求めないという自分だけのためのクイズを量産することで、不条理の快感と笑いがもたらされるようです。


対談はこうした都築さんが採集してきた詩をめぐって、「ホンモノの詩」に対して、じりじりとその意味を迫っていくスリリングなものです。
日本で唯一、詩だけで食べていけた詩人と言われる谷川さんの言葉は、時に含蓄があり、時に生々しく、さすが詩一本で暮らしてこれただけの厚みがあります。
その谷川さんが、人に言われて一番こたえるのは、「私が好きな詩人は谷川俊太郎さんと相田みつをです」と言われることだそうです。
やはり相田みつをと同列にされるのは嫌なようです。


相田みつをの詩にはメッセージが込められているから引っかかると谷川さんは言います。
メッセージがあるなら散文で示せばいい、詩はメッセージではなく言葉の存在感なんだ、と。
夜露死苦現代詩』に紹介されている詩もその多くが、ある種のメッセージを背負っています。
やはり、人は言葉を綴る時に、どうしても伝えたいことが無いとダメと思ってしまうんでしょうね。
映画や小説を読む時も、つい、この作品に込められたテーマは何か? 作者はこれを通して何が言いたいのかと思ってしまうのが人情です。
しかし、実際は、どうしてその作品が書かれたのかということは、作者にもはっきりしないものなのです。
書く前から知っている、わかっていることなんか、そもそも敢えて書く必要なんかないですしね。
曖昧で、うまく言語化できないから、人はものを書くのです。


しかしその一方、難解過ぎて、もはや詩の関係者しか読んでいない今の現代詩の現状というものがあります。
今年の萩原朔太郎賞が「アストロノート松本圭二に決まったことも一般の人は知らないし、きっと興味もありません。
(どうやら、選評などを読むと、この作品も相当『夜露死苦現代詩』的らしいですが)
かたや、ホンモノ詩業界からは無視されていても、死後なお人気衰えず、700万部以上売れている相田みつを
この双方を同時に考えていかないと、やはり現代に必要とされる詩というものが見えてこないように思えます。


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