わかれてきた道がまっすぐ

山頭火句集
4480029400種田 山頭火 村上 護

筑摩書房 1996-12
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おすすめ平均star
star懐かしい山頭火
starしんしんとした静寂
starカオル

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年末から正月にかけて山頭火を読んでいました。
句集「草木塔」の他に、行乞の日記、そして山頭火の生涯を描いたコミックまで探して読んでしまいました。
それというのも、12月にNHKで放送していた「私のこだわり人物伝」の影響です。
ナビゲーターの仲畑貴志氏の話も面白かったのですが、なんといっても素晴らしかったのは、福島泰樹氏の語りです。
福島さんは絶叫歌人として有名な方ですが、なぜかこの番組のナレーターを務めています。
円谷英二など今までの回では正直、声色的にちょっとどうかと思っていたのですが、
さすが歌人、この山頭火の回では、その絶叫ぶりを本領発揮しています。
ナレーターとは思えぬほど感情を爆発させた句の詠みが素晴らし過ぎるので、
録画した番組のうち福島さんが詠む句の部分だけ切り出して再編集してしまいました。
(福島さんは絶叫ライブのDVDも出していますので、ぜひその雄姿もご覧ください。)


この福島さんの感情爆発詠みのおかげで、今まであまりピンときていなかった山頭火の句が
急に輝き出し、ついにまとめて読む気になったのです。
無頼の俳人山頭火
世間が嫌いなくせに、孤独の中では生きていけないさびしがり屋。
酒乱で働かず、周囲の人に迷惑をかけ続けて死んだ男。
そんなどうしようもない人間なのに、残した句はなぜか澄み切っているのです。


「しぐるるや死なないでゐる」
「酔うてこほろぎと寝ていたよ」
「こんなにうまい水があふれてゐる」
「陽を吸う」
「まっすぐな道でさみしい」
「鉄鉢(てっぱつ)の中にも霰(あられ)」
「どうしようもない生き物が夜の底に」
「かうしてここにわたしのかげ」
「うしろすがたのしぐれてゆくか」


山頭火はとことんダメなおっさんです。
今の時代に山頭火がいたら、きっと見捨てられて病院か警察行きでしょう。
こんなダメで迷惑千万なおっさんを、困りながらも支えていた多くの人がいたことが驚きです。
そんな人々がいたからこそ、彼の生活は貧乏でもどこか飄々とした太平さがあり、句が濁らず澄んでいるのだと思います。
今より飢餓や病気のリスクが高い時代なのに、なぜか余裕があるようにも見えます。
山頭火よりお金があっても、今の時代、どこか追いつめられたような気持ちになるのはどうしてなのかと
彼の句集を読みながら考えています。
今は貧乏を許さない、貧乏が悪の時代だからかもしれません。


山頭火の句は五七五にとらわれない自由律俳句です。
番組で仲畑氏も言っていましたが、そのまま現代のCMコピーにも使えそうなものまであります。
昭和のはじめに詠んだ句が、現代にも通じています。
やはりそこに込められた人間の業が魅力を放つのでしょうか。


世間が嫌いなくせに、人間を求めずにはいられない。
番組の最後で、渋谷の雑踏に重ねられた句が印象的でした。
「わかれてきた道がまっすぐ」



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