今月の文芸誌。

無銭優雅
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 新刊が出た影響か、山田詠美先生が「群像」「文學界」でそれぞれ対談しています。
 新譜PRのために出てくる浜崎あゆみみたいですね。
 「文學界」の相手は今回芥川賞選考委員を退いた河野多恵子氏です。テーマはずばり「文学賞とは何か」。
 芥川賞選考委員という「選ぶ」立場からの話が興味深いです。
 それにしても、山田先生は賞の話が大好きですね。正直な気持ちがコトバに表れていて好感が持てます。
 「小説トリッパー」に載っていた中原昌也芥川賞落選ドキュメントについて痛罵を放っているのが最高です。


 「群像」の相手は、今や大御所となった感のある川上弘美氏です。
 テーマは「小説とは地味なものです」ということで、それぞれの小説論を披露しています。
 一見穏やかな対話に見えますが、そこはライバル同士、小説への姿勢は相手には負けないぞという気合いが感じられます。


 「すばる」はドストエフスキー特集です。斎藤美奈子の「『カラキョウ』超局所的読み比べ」が面白いです。
 『カラキョウ』とは、もちろん「カラマーゾフの兄弟」のこと。
 1915年の初訳以来、14もの訳書がある同書。
 そのニュアンスの変化を示すために、「大審問官」の印象的なフレーズなどを比較しています。
 私は個人的には、柔らかみのある原卓也氏の訳本を愛用しています。
 しかし斎藤さん、小六の時に父に連れられて同書のソ連映画を見ていたとは、凄い少女期を送っていますね。
 ドストエフスキーについては、「文學界」に連載中の山城むつみ氏の「ドストエフスキー」もおすすめです。


 作品系を見ていくと、「新潮」で不定期連載していた舞城王太郎氏の「解決と○ん○ん」(ディスコ探偵水曜日第三部)がついに完結です。
 と、思いきや、最後の付記を読むと、今回をもって第三部が完了しただけで、今後第四部を追加して夏に単行本として出すとのことです。
 この作品、やたらわけのわからない図や表が出て来ていて、果たして収拾が付くのだろうかと心配でしたが、
 ついに単行本としてまとまるようなので一安心です。
 単行本といえば、以前「文學界」に連載していた筒井御大の「巨船ベラス・レトラス」もようやく来週16日に発売です。
 お得意のメタ・フィクションを使って、現代の文芸事情をぶった斬る痛快な作品です。
 作品中に出てくる北宋社問題(著者に無断で作品集を刊行)のその後も気になるところです。


 注目の小説は、「文學界」掲載の小林信彦日本橋バビロン」です。
 自身の幼少期の思い出を絡めた、お馴染みの「東京懐古」ものです。
 東京の昔を知らない者に対する嫌みがいつものように滲み出ていて素敵です。


 エッセイ系では、いろいろ細かい鍔迫り合いが、あちこちで起きていて面白いです。
 田中和生氏が平野啓一郎の新刊をぼろくそに言ってます。
 「幼児的な作家」「最悪に近い具体例」等。
 まあ実験的な作品集ですから好き嫌いが分かれるところでしょうが、それにしても痛烈です。
 実験的という意味では同類の福永信が、「新潮」で冷静にそれぞれの作品を分析していたのと対照的です。
 あと、西村賢太氏が「文學界」の著者インタビューに登場しています。
 そもそも氏のデビューはこの「文學界」に同人誌優秀作として掲載されたことにあるのですが、
 なぜかその後、「文學界」では作品を見かけません。
 今回の著者インタビューという取り上げ方に対して、西村氏はどう思っているのでしょうか。
 インタビューでは、その作風に対する世間の批評について、率直な言葉での反論を行っています。
 岡田睦という新機軸の貧乏作家も現れている折、今後の活躍に期待です。


 連載ものの「決壊」平野啓一郎、「東京島桐野夏生、「太陽を曳く馬」高村薫、「火の島」石原慎太郎、「歌うクジラ」村上龍とそれぞれ佳境に入ってきているので、読むのが楽しみです。
 短編など印象に残った作品などまた下旬に報告したいと思います。