第一回ほぼ日寄席。

 「ほぼ日刊イトイ新聞」略してほぼ日主催の「春風亭昇太ひとり会」に行く。詳しくはほぼ日の「はじめての落語。」というところを参照。
http://www.1101.com/shota/index.html
 会場はおよそ落語をするには似つかわしくない天下の六本木ヒルズ、それもふだんは硬い経営セミナーとかやっているアカデミーヒルズなどという奥の院である。
 今回は生の落語を聴いたことがない人対象に、落語の魅力をわかりやすくかつ抱腹絶倒に教えるという、今までありそうでなかった企画である。
 なるべく落語初心者に来てほしいということであったが、出演が日頃からファンの昇太師匠とあっては、申し訳ないが行かしてもらう。
 会場は予想以上に若い人が多い。まるでほぼ日のオフ会のようである。ふだんほぼ日にアクセスしている人の具体的な姿がわかっておもしろい。
 主催者糸井氏とともに昇太師匠登場。朝から連続3公演という超ハードプログラムにもかかわらず、元気。とても40代には見えない。


 二人に「今日初めて生の落語を見る人はどのくらいいるか」と聞かれて手を挙げる人、多数。
 なるほど、つまりふだん寄席などには行かないけれど、それは落語に関心が無いわけではなくて、何か、見るきっかけが今まで無かっただけの人がこんなにいるということだ。
 その証拠に、こういう形でうまくナビゲートしてあげれば、これだけの人々が集まってきている。要は情報の伝え方の工夫次第ということだ。
 今はTVをつければ毎日、なにかしらお笑いバラエティの番組を見ることができる。タダでそういう環境が得られる中で、わざわざ寄席まで足を運んで、それもTVではあまり聞いたことのない噺家や色物芸人をお金を払って見るという行為はなにかよほどの魅力がなければ、なかなかその気になれないことはわかる。
 しかし、寄席で落語を聴くということで得られる楽しさは、TVのお笑いとは全く別種のものなのである。こればっかりは一度行ってみないとわからない。でも大多数の人はその一度目をしないまま過ごしている。誰かがその一度目を体験させてあげるまでは。
 そういう意味で、今回の「ほぼ日寄席」は大変有意義な企画だったと思う。
 それは初めてライブの落語を見たお客さんだけでなく、今回出演した昇太師匠やコマ回しの三増紋之助師匠も感じていたことだと思う。
 紋之助師匠が思わず「今日は気持ちイイ!!」と発した言葉がそのすべてを物語っている。
 芸に見慣れてあまり反応もない常連相手より、その芸の手技ひとつひとつに素直な感動を返してくれる人々を前にしてやる時の芸の輝きっぷりは比べものにならない。芸人はやっぱりお客さんあってのものなのだ。
 しかし考えるに、今回この企画を見てほしかったのは、寄席を運営している人たちや落語協会などの関係者の人たちだ。これだけの人が実は落語に興味があり、敷居の低さときっかけさえあればわざわざ見に来てくれるんだという事実を目の当たりにすれば、何を変えていけばいいのかわかるはずだ。


 高座のほうは古典「壺算」と新作「人生が二度あれば」。どちらも昇太師匠のノリの良さが出ていて飽きない。周りの若い兄ちゃん達も「昇太、すげえ」と絶賛の嵐。ぜひこれを機会に昇太師匠のおっかけにでもなってもらいたいものだ。
 今日は新作5つのうちからひとつセレクトだったが、ぜひ他の演目もいつか聞ける機会があればと思う。なかなかこういう類のやつはふだんの定席では聴くことができないしね。


 松茸懐石
 神亀生酒