群像と文學界の新人賞発表。

群像 2007年 06月号 [雑誌]群像 2007年 06月号 [雑誌]

新潮 2007年 06月号 [雑誌] 群像 2007年 04月号 [雑誌] ゲーム的リアリズムの誕生~動物化するポストモダン2 新潮 2007年 05月号 [雑誌] 文学界 2007年 06月号 [雑誌]

by G-Tools


今月の文芸誌は、なんといっても新人賞受賞作に注目です。
いやーしかし今回の新人賞は文學界、群像ともに、ぶっとんでますよ。
まずは文學界新人賞円城塔オブ・ザ・ベースボール」。
これはもうSFそのものというか、ちょっと安部公房みたいな雰囲気もあるようなないような・・・。
一年に一度、空から人が降ってくる町の話です。
町にはそれに対するレスキュー部隊も組織されていますが、レスキューとは名ばかりで、
人が降ってきたらバットで打ち返すという乱暴さです。絶対、死ぬって。
作者は、前回の小松左京賞の最終選考候補になっていた人だそうです。
そっちのほうではもう単行本「Self-Reference ENGINE」が出ていて、一部では評判になっています。これからが楽しみな人ですな。


群像新人賞のほうは、SFどころか、もう訳が分からないトンデモ領域に達しています。
「アサッテの人」諏訪哲史
「ポンパ」「チリパッハ」とか意味不明なコトバをいろいろ叫ぶオジサンのことを回想していくという話ですが、一ミリも理解不能です(笑)。
でもなぜか読み進めることができるのは、語り手が糞真面目だからです。
天然のボケ的誠実さとでも言うんでしょうかね。
ここ笑うところですよね?ね?と思わず、作品の向こうの作者に仮想ツッコミ入れながら読んでしまいます。


優秀作の「だだだな町、ぐぐぐなおれ」広小路尚祈のほうは、「ポンパ」の衝撃のために全く普通に見えます。
選評でも言われてますが、町田康を彷彿とさせる作風です。題名からして、そういう雰囲気ですよね。
こういう語り口だと、主人公のバリエーションがパターン化してしまうのでしょうか。オレ語りだし。
どこか既視感のある主人公でした。


既視感といえば、文學界新人賞のもうひとつのほう、「舞い落ちる村谷崎由依は、川上弘美風です。
ずばり、選考委員の川上弘美本人から「わたしの小説と、ちょっと似ていません?」と言われています(笑)。
川上氏は最後まで受賞に反対したみたいですが、これってよく考えると、凄いことですよ。
本人から似ているというお墨付きをもらえたわけですから。
なかなか川上文学に似せようとしても難しいですよ。それだけこの作者のレベルが高いという証拠でしょう。
奇妙な村と東京を往還する女子大生が主人公で、村の生態がとにかく魅力的です。
私は川上風というよりは諸星大二郎を連想しました。もしかすると、一種の伝奇SFなのかもしれませんね。


新人賞の応募が今は二極化していて、10代のライノベ世代と還暦前後の団塊世代だそうです。
ライノベはともかくとして、団塊世代の自分の人生振り返り話は正直読みたくないですね。
団塊には団塊なりの狂気があると思うので、そのへんをむしろ狙ってほしいですね。
「ポンパ」に太刀打ちするには、それしかないような気がします。


その他、今月の文芸誌の注目作・記事を拾ってみますと、
「工学化する都市・生・文化」東浩紀仲俣暁生 対談(新潮)・・・「東京から考える」の延長線上の話が聞けて刺激的です。
「炎のバッツィー」加藤幸子(新潮)・・・昨年の群像11月号の「バッツィー」の続編。意地悪姑生物バッツィーふたたび!雪山に捨ててきたはずのバッツィーが帰還!手に汗握るバッツィーとの攻防戦!そんじょそこらのライノベよりスリリングですわ。
「心はあなたのもとに」村上龍文學界)・・・群像に続き文學界でも連載開始。群像が「半島から出よ」系とすると、こちらは「トパーズ」系ですな。例によって、コールガール(古いですか(汗))登場!いいなあこの乾いた背徳の雰囲気。待ってましたという感じです。
「煉獄ロック」星野智幸(すばる)・・・先月から始まった星野SFシリーズ(勝手に命名)。前作「無間道」の超どろどろ東京には、ぶっとびましたが(必読!)、今回も読ませてくれました。この人は実はSF作家の資質もあるのではと思わせる面白さです。
近未来の東京で繰り広げられる公開処刑と完全管理教育。
こういうの読んでから「らき☆すた」見ると、あー平和でいいなあと、ほっとしますよ。


ということで、いつもより数段スリリングな今月の文芸誌でした。


Self-Reference ENGINESelf-Reference ENGINE
円城 塔


Amazonで詳しく見る
by G-Tools